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京都地方裁判所 昭和60年(ワ)2825号 判決

原告

阪井繁

右訴訟代理人弁護士

青木一雄

渡部明

被告

久世神社

右代表者代表役員

水田益男

右訴訟代理人弁護士

村元健眞

主文

一  原告が別紙物件目録記載の土地のうち別紙図面のA、B、C、D、E、F、G、Aの各点を順次結んだ範囲内(斜線の部分)の土地206.67平方メートルについて、原告と被告間の昭和五五年八月一三日付け賃貸借契約に基づく賃借権を有することを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五五年八月一三日、被告との間で、被告の所有する別紙物件目録記載の土地のうち、別紙図面のA、B、C、D、E、F、G、Aの各点を順次結んだ範囲内(斜線の部分)の土地206.67平方メートル(以下「本件土地」という。)について、原告を借主、被告を貸主とする左記内容の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。

(一)賃借目的 非堅固建物所有

(二)賃借期間 借地法二条の法定期間(三〇年)

(三)賃料 年額一平方メートル当たり金五〇円

(四) 支払方法 毎年一二月末日限り、持参払

2  しかるに、被告は、本件賃貸借契約の有効な成立を争っている。

よって、原告は被告に対し、本件土地について本件賃貸借契約に基づく原告の賃借権が存在することの確認を求める。

二  請求原因に対する認否ないし反論

1  請求原因1の事実のうち、本件土地が被告の所有するものであることは認め、その余の事実は否認する。

本件賃貸借契約は、原告の父である訴外阪井栄太郎(以下「訴外栄太郎」という。)と被告代表者である水田益男宮司(以下「水田宮司」という。)個人との間で締結されたものである。すなわち、訴外栄太郎は昭和四三年六月から被告神社の責任役員の立場にあったものであるが、被告代表者の水田宮司に対し、息子である原告の名で本件土地を借り受けたいと申し入れ、これに対し水田宮司は言われるままに個人として訴外栄太郎との間に本件賃貸借契約を締結したものである。

2  請求原因2の事実は認める。

三  抗弁

仮に、本件賃貸借契約が原告と被告との間に成立しているとしても、つぎの理由により無効である。

1  宗教法人法及び久世神社規則違反

(一) 被告は宗教法人法に基づく宗教法人であるが、同法二三条は、宗教法人が不動産を処分するときはその一か月前に信者その他の利害関係人にその要旨を示して告知しなければならないと規定し、同法二四条は、宗教法人の境内地である不動産について前条の規定に違反した行為は無効であるとしている。

(二)また、宗教法人「久世神社」規則(以下「久世神社規則」という。)は、被告神社が不動産その他の基本財産を処分するには、責任役員で構成する役員会の議決を得たうえ、役員総代会の議決を得なければならないとされている。

(三)本件土地は、被告神社の境内地に属し、基本財産に該当する不動産であることは明らかである。

すなわち、本件土地は、もともと境内建物が存する一画の土地であったが、国鉄奈良線の開通により二分され、本件土地の側には被告神社の鳥居があり、史実を持った「かに池」があって、久世廃寺の遺跡の一部にも該当する地域であり、被告神社の境内地である。

(四)本件賃貸借契約は、被告神社にとって、境内地である不動産の処分行為になるところ、前記宗教法人法及び久世神社規則に基づく所定の手続を全く経ておらず、従って、無効である。

2  被告代表者の権限濫用行為

本件土地付近は、久世廃寺の遺跡地内であり、被告神社としては、歴史的に重要な場所として宗教法人法の精神に従い保存すべき立場にある。

しかるに、被告代表者の水田宮司は、その任務に反し、代表者の権限を濫用して本件土地を原告に賃貸する本件契約締結行為に及んだものであり、訴外栄太郎は責任役員の地位にありながら、自己の利益のみを追求し、水田宮司の右権限濫用行為を知り、または、重大な過失により知らずに原告の代理人として本件賃貸借契約を結んだもので、従って、本件賃貸借契約は無効である。

四  抗弁に対する認否ないし反論

1  抗弁1の事実のうち、被告が宗教法人法に基づく宗教法人であること、本件賃貸借契約の締結に際し、事前に宗教法人法及び久世神社規則に基づく所定の手続を経ていないことの各事実は認めるが、本件土地が宗教法人法の「境内地」であることは否認する。

本件土地は、被告神社の境内地ではなく、境外地である。

すなわち、被告神社の本来の境内地は、城陽市久世小字芝ヶ原一四二番及び一四二番一の土地(以下、同所の土地については地番のみをもって表示する。)であり、一四三番と本件土地の属する一四三番一の土地はもと官有地で、被告が譲り受けたものである。

そして、鉄道の敷設により、一四二番の土地が一四二番と一四二番一に、一四三番の土地が一四三番と一四三番一にそれぞれ分筆されたもので、被告主張の鳥居及び「かに池」は一四二番一の土地に存するものである。

しかも、本件土地を含む一四三番一の土地は、昭和二〇年代の始めから借地として使用されて多数の居住用家屋が建っており、本件土地上にも昭和四四年以前は建設省公舎が存在していたもので、現状からみても境内地となっていない。

また、本件土地は、神社本庁備付けの書類上も境内地と記載されておらず、城陽市の固定資産台張上も地目山林(現況公衆用道路及び宅地)として課税対象にされている。

2  そうすると、抗弁1の事実のうち本件賃貸借契約について宗教法人法二三条の手続がなされていないことは認めるが、同法二四条は境内地の処分につき前条の規定違反を無効としていることの反対解釈からして、境外地である本件土地の賃貸借は有効であると解すべきである。(広島高裁昭和四〇年五月一九日判決参照)

3  なお、原告の久世神社規則違反の主張のうち、役員総代会の議決については、その旨の規定は昭和五七年一月二二日に新設されたもので、本件賃貸借契約締結当時はその議決を経る規定はなかった。

4  抗弁2の事実は否認する。

本件土地は、鉄道の隣接する騒音に問題のある土地で、昭和四四年ころ、それまでの借地人が建物を取り壊してからは空地のまま荒れ放題になっていたものであり、本件賃貸借契約がなされた昭和五五年ころまで、誰からも借地の申込のなかった土地である。

従って、原告側としては、自己の利益のみを図ろうとした訳ではなく、まして、知りながら必要な手続をとらなかったものでもない。

五  再抗弁

1  仮に、本件土地が境内地であったとしても、宗教法人法二四条但し書により、被告は本件契約の無効を原告に対抗できない。

すなわち、原告及び訴外栄太郎並びに被告代表者の水田宮司は、いずれも本件賃貸借契約の締結行為が同法二三条等の手続に違反することを知らなかったものであり、原告は善意の第三者として保護されるべきである。

2  仮に、本件賃貸借契約について、被告主張の久世神社規則違反があったとしても、昭和五七年七月一日付けの書面で被告から事後承諾を得ており、さらに、昭和五九年五月二二日開催の責任役員会において追認の議決を得ているから、既に右手続上の瑕疵は治癒されている。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の主張ないし事実は争う。

原告の代理人の訴外栄太郎は、本件賃貸借契約締結当時、被告神社の責任役員であって、宗教法人法及び久世神社規則上の手続を要することを十分熟知していながら、所定の手続をとらなかったものである。

2  再抗弁2の事実のうち、本件賃貸借契約について昭和五九年五月二二日開催の責任役員会において追認の議決がなされたことは認める。

七  再々抗弁

再抗弁2の追認の議決は、つぎの理由から無効である。

すなわち、右当日の役員会では、本件賃貸借契約の他に責任役員である坪井民雄及び西山勉がそれぞれ関係する賃借権承認の議題が提出されており、かかる利害関係人が議決権を行使した議決は無効である。

さらに、被告代表者の水田宮司は、本件賃貸借契約の当事者の地位にあったものであるから、利益相反し、仮代表者を選任して審議すべきであったもので(宗教法人法二一条一項、久世神社規則一二条)、この点にも重大な手続違反がある。

八  再々抗弁に対する認否

再々抗弁は争う。

水田宮司個人は本件賃貸借契約の当事者ではなく、従って、 本件賃貸借契約について利害関係人には当たらない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1の事実のうち、本件土地が被告の所有するものであることは当事者間に争いがなく、本件賃貸借契約について、原告は原、被告間で締結されたと主張するのに対し、被告は原告の父の訴外栄太郎と被告代表者の水田宮司の各個人で締結された旨主張するので、以下、検討する。

〈証拠〉によれば、つぎの事実が認められる。

1  原告の父の訴外栄太郎は、元警察官の職にあったものであるが、昭和四三年六月から被告神社の責任役員に就任し、同神社の代表者である水田宮司が他に主務神社を持っていた関係もあって、同宮司に代わって会合に出席するなど被告神社の運営に深い関わりを有する立場にあったこと。

2  本件土地は、もと建設省の公舎敷地に貸されていたが、昭和四四年ころ被告に返還され、その後は空き地として特段使用されることのないままにきていたところ、その近隣地の被告の借地に居住する原告が昭和五五年八月ころ本件土地を自宅建築用地として目をつけ、同居中の父訴外栄太郎に被告神社への借地の交渉を依頼したこと。

3  訴外栄太郎は、原告からの依頼を受け、その意向を被告代表者の水田宮司に伝えたところ、同人は訴外栄太郎と昵懇の間柄にあったこともあって、二つ返事でこれを了承し、昭和五五年八月一三日本件土地につき貸主を被告神社、借主を原告とする本件賃貸借契約の内容の記載された契約書(甲第二号証)が作成されたこと。

なお、右契約書の原案は、原告が市販の法律書を参考に作成して訴外栄太郎が清書し、賃貸人欄に被告神社の代表役員名で水田宮司が署名、押印し、賃借人欄に原告名が記されて原告が押印していること。

4  原告は、その後訴外栄太郎の協力を得て、被告神社代表者水田宮司との間に本件土地についての整地及び擁壁設定の協定書(甲第三号証)を右同日付けで作成し、原告の費用負担で昭和五六年五月ころから業者に依頼して本件土地の整地と隣地間のフエンス設置工事を進めたこと。

また、本件土地の地代については、昭和五四年度分に遡って支払われ、昭和五五年一二月には同年分の地代(一万一六〇〇円)が訴外栄太郎を通じて被告神社に支払われて、原告宛に被告神社の領収書が発行されていること。

5  ところが、昭和五六年八月ころから、被告神社の役員間で、代表者の水田宮司が役員会に図ることなく本件土地を原告に貸したことについて批判的意見が出始め、同年九月ころからは、本件賃貸借契約が訴外栄太郎の役職利用行為ではないかとの声が地域住民から出て、同訴外人を誹謗する文章が配布されるなど深刻な事態に発展したこと。

6  かかる事態の中で、被告神社代表者の水田宮司は、原告に対し、地元氏子の間に反対意見があることを理由に本件土地の返還を申し入れたが、既に自宅の建築準備を進めているので今さら返還には応じ難いとして拒否され、昭和五六年九月九日ころ京都府神社庁に善後策の相談を持ち掛けたこと。

7  これを受けて、京都府神社庁は、昭和五七年一月一三日、水田宮司に対し本件土地を二分して半分を原告に賃貸し、残余の返還を受ける解決案を示した進言書を交付したが、原告側ではこれに対し不服の態度を示し、結局、問題解決には至らなかったこと。

8  その後も、本件土地賃貸借を巡って被告神社の役員ないし氏子間で意見の対立が続いたが、水田宮司は、訴外栄太郎の強硬な態度におされ、昭和五七年七月一日、原告に対し、前記進言書により京都府神社庁から右契約が有効と認められたとして本件土地の使用を認諾する内容の書面を被告神社代表役員名で差し出していること。

9  しかし、その後も本件土地賃貸借を巡る問題は被告神社内部の紛争として尾をひき、原告は、自宅の建築を控えたまま事態の推移をみていたが、昭和五九年五月末には訴外栄太郎が任期満了で被告神社の役員を辞任し、その約一年後の昭和六〇年六月五日宇治簡易裁判所に被告神社を相手として本件賃貸借契約の有効確認の調停を申し立て、その不調により本件訴訟を提起するに至ったこと。

なお、被告神社は、昭和五九年度までの本件土地の地代は原告から異議なく受領していたが、右調停の申立のあった昭和六〇年度からは受領を拒み、その後は原告において供託中であること。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、本件賃貸借契約の締結に際しては原告の父訴外栄太郎が深くこれに関与し、同人と被告神社代表者の水田宮司との責任役員、代表役員としての親密な関係が契約締結に強い影響を与えていることは否めないが、さりとて、訴外栄太郎と水田宮司の個人間で契約が結ばれたとまで認めるには足りず、本件土地の賃貸目的、契約書の内容と作成経過、契約締結後の地代受領等の経緯に鑑みると、本件賃貸借契約は原告と被告神社代表者(すなわち被告神社)との間において締結されたものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

請求原因2の被告が本件賃貸借契約の有効な成立を争っている事実については当事者間に争いがない。

二そこで、被告の抗弁主張のうち、まず、抗弁1の宗教法人法及び久世神社規則違反の点について判断する。

被告神社が宗教法人法に基づく宗教法人であることは当事者間に争いがなく、同法二三条は、宗教法人が不動産を処分するときは規則で定めるところによるほか、その行為の少なくとも一か月前に信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示して告知しなければならないと規定し、同法二四条は、宗教法人の境内地である不動産について前条の規定に違反した行為は無効であるとしている。

そして、本件賃貸借契約に基づく本件土地の賃貸借行為は単なる一時使用ではなく、建物所有を目的とする借地法上の保護を受ける権利設定行為であるから、宗教法人法二三条の「不動産の処分」に該当することは明らかであるところ、本件賃貸借契約につき同条所定の公告手続がとられていないことは当事者間に争いがない。

また、〈証拠〉によれば、久世神社規則二三条、二四条、二五条等の規定上、被告神社は不動産その他の基本財産を処分するときは責任役員で構成する役員会の議決を必要とし、かつ、役員が連署のうえ神社本庁統理の承認を要することになっているが、本件賃貸借契約につき右規則上の諸手続がとられてないことについても当事者間に争いがない。

そうすると、本件賃貸借契約は、宗教法人である被告神社の不動産処分であるにもかかわらず、宗教法人法及び久世神社規則上の所定の各手続を経ていないことにより、宗教法人法二三条の規定に違反した法律行為であることは明白であるが、その効力については、同法二四条が宗教法人の境内建物もしくは境内地である不動産または財産目録に掲げる宝物に限定して前条の違反行為を無効としている反対解釈からして、本件土地が被告神社の境内地に該当する場合は無効となり、そうでない場合は代表役員に対する罰則規定の発動等が生じるとしても対外的には無効とはならないものと解される。

そこで、以下、本件土地が被告神社の境内地に該当するか否かを検討するに、前記認定のとおり本件土地はもと建設省の公舎敷地に貸されていた土地で、昭和四四年ころ被告に返還され、その後は空き地として特段使用されることのないままにきていたものであり、右事実に加えて、〈証拠〉によれば、本件土地の属する一四三番の一の土地は、登記簿上の地目は山林となっているが、従前から現況は公衆用道路を挟んだ宅地で借地として利用され、多数の借地人が居住用建物等を建てていること、被告神社の社殿は一四二番の土地に属し、歴史的由来を持つ「かに池」と呼ばれる池と鳥居の立つ参道は一四二番の一に属して、いずれも本件土地とは地番を異にすること、本件土地は、一四三番の一の土地の中では、位置的に「かに池」のある一四二番の一の土地の近くに存するが、その間にはもう一軒訴外西山方の建物が建っていること、神社本庁備付けの久世神社明細書には、一四三番の一の土地を境内地とする記載はないこと、また、城陽市の固定資産台帳においても、一四二番と一四二番の一の土地は現況境内地として非課税の扱いとなっているが、本件土地の属する一四三番の一の土地は現況宅地部分について課税対象とされていることの各事実が認められ、これらの事実を総合すれば、本件土地は宗教法人法三条に規定する境内地に該当するものではなく、いわゆる境外地に当たるものと認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(なお、〈証拠〉によれば、本件土地付近は久世廃寺の遺跡調査対象地域に含まれている事実が認められるが、これをもって本件土地を宗教法人法三条六号の歴史、古記等によって密接な縁故がある土地と認定するに足りない。)

以上から、本件賃貸借契約は、宗教法人法二三条に違反したものであることは明白であるが、本件土地が境内地に該当しないことにより無効とまではいえなく、従って、被告の抗弁1の主張はその余の点についての判断に立ち入るまでもなく失当として排斥を免れない。

三つぎに、被告の抗弁主張のうち、抗弁2の代表者の権限濫用行為の点について判断する。

宗教法人に限らず法人の代表者が自己の権限を濫用して法律行為をなし、かつ、その相手方ないしはその代理人において当該権限濫用の意図を知りまた知ることを得べかりし場合は、民法九三条但し書の規定を類推して、右行為は無効となると解される。(最高裁判所昭和三八年九月五日第一小法廷判決、民集一七巻八号九〇九頁、最高裁判所昭和四二年四月二〇日第一小法廷判決、民集二一巻三号六九七頁各参照。)

これを本件賃貸借契約についてみるに、前記認定事実からすれば、被告神社の代表者である水田宮司は、宗教法人の公益財産を法規に従い適正に保全すべき立場にありながら、宗教法人法及び久世神社規則に基づく所定の手続を一切経ないままに、責任役員の訴外栄太郎の依頼に安易に応じて本件土地を原告に賃貸しており、原告の父で同人の代理人として本件土地賃貸借の交渉に加わった訴外栄太郎が責任役員として被告神社と密接な関係にあればこそ、なおさらに本件賃貸借契約締結に際しては法規を遵守し、公正さを担保するために責任役員会の審議を経るなどの慎重さが求められたところであり、これらを欠いた水田宮司の行為は被告神社の代表者の行為として適切ではないとの批判を免れない。

また、原告側においても、訴外栄太郎が責任役員として被告神社の内部規則や関係法規に精通する立場にあり、被告代表者の水田宮司と親密な関係にあったものであるから、本件賃貸借契約の締結に際しては、代表者と責任役員の癒着の謗りを受けないためにも、関係法規に則り、少なくとも責任役員会の議決を経たうえで契約を結ぶ配慮が求められたところであり、かかる配慮をすることなく、被告代表者の水田宮司とのみ事を進めたことは、いわゆる役得としての批判を生じさせるもので適切さを欠くものといわなければならない。

しかしながら、一方、〈証拠〉によれば、本件賃貸借契約当時、本件土地は約一〇年間にわたり空き地として放置されていたもので、原告以外の他の者から借地の希望が相次いでいたという状況ではなかったこと、訴外栄太郎及び水田宮司においては、宗教法人法ないし久世神社規則上の不動産の処分とは、土地の売却等の行為を指し、賃貸借はこれに含まれないと解釈していた模様で、右両名あるいは原告において前記手続違反を認識しながら相諮って本件賃貸借契約の手続を進めたというものではないこと、被告神社所有の前記一四三番の一の土地の他の多数の借地についても、従来、宗教法人法ないし久世神社規則所定の手続がとられた形跡がないことの各事実が認められ、これらの事実を総合すれば、被告神社代表者の水田宮司の原告に対する本件賃貸借契約締結行為をもって権限濫用行為とまで認めるには足りないという他なく、本件全証拠によるもこれを認めるに足りる証拠はない。

以上から、被告の抗弁2の主張についても理由がないことに帰する。

四以上の次第から、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官佐藤武彦)

別紙〈省略〉

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